産褥感染症とは、産褥期(さんじょくき)に発生する感染症のことを指します。
産褥とは、出産後にお母さんの身体が徐々に非妊娠時の状態に戻る時期のことを指します。
産褥感染症は生まれた赤ちゃんではなく、あくまでもお母さん自身におこる感染症に限られます。
出産の影響で起こりえる感染症という意味もあるため、感染が起こる場所は、主に子宮、尿路(尿道、膀胱、腎臓など)、乳房となります。
産後に引いた風邪や、胃腸炎などは産褥感染症に含まれません。
●原因
出産では、子宮の内面に傷がたくさんできます。
また、普段はほとんど閉じている子宮口(子宮の入り口)がしばらく開いたままになるため、産褥期には子宮内や子宮の周囲に感染が生じやすくなります。
特に、以下のようなケースでは産褥感染症が起こる可能性が高くなります。
前期破水などで破水から長時間経過した場合
胎盤を出すときに用手剥離(自然に剥がれない胎盤を医師が手で剥がし出す処置)が行われた場合
分娩前から子宮内感染が起きていた場合 など
尿道口の付近にも悪露(おろ)(産褥期に排出される分泌物)の溜まりや、そこに増殖してしまった細菌などが侵入しやすく、尿路感染のリスクが高い状況でもあります。
乳房での感染症は主に乳腺炎と呼ばれますが、これは乳腺の通りが悪い部分に乳汁が溜まってしまい、そこに細菌が侵入することで発生します。
細菌が増殖して膿が溜まってしまうような乳腺炎を化膿性乳腺炎と呼びます。
●症状
子宮内感染が起こると、下腹部痛、発熱、悪臭のある悪露などがみられます。
尿路感染には尿道炎、膀胱炎、腎盂腎炎などが含まれます。
残尿感や頻尿・排尿時痛がみられますが、腎盂腎炎まで至ってしまうと高熱が出て、腰のあたりに強い痛みが出ることもあります。
乳腺炎は、乳汁の流れが悪くなり、一部に溜まってしまうと、乳房が赤く腫れる、熱感がある、強い痛みが現れるなどの症状が出ます。
発熱を伴うこともありますが39度以上まで上がることは少ないです。
化膿性乳腺炎まで進んでしまうと、症状が強くなり、全身のだるさや高熱が出ることも多くなります。
●検査・診断
それぞれの疾患によって必要な検査法は異なります。
子宮内や子宮周囲(卵巣、卵管など)の感染では、内診、超音波検査が行われます。
内診時に子宮のあたりを押されたり動かされたりすれると強い痛みを感じる、また悪露の臭いや色が診断の参考になります。
子宮内感染が疑われた場合には、悪露の細菌培養検査や全身状態によっては血液検査も加えられることがあります。
尿路感染では、まず問診が重要になります。
さらに、腎盂腎炎に進行していないか身体診察で調べ、尿検査も行われます。
尿路感染でも、腎盂腎炎など重症の場合には、血液検査が追加されます。
乳腺炎も、まずは身体診察が重要です。
ほとんどの場合では乳房の診察だけで診断可能ですが、乳腺炎のなかでも重症な場合(化膿性乳腺炎や乳腺膿瘍など)では、膿汁の細菌培養検査や、血液検査が行われることもあります。
●治療
それぞれの疾患によって対応が変わりますが、感染症という点はいずれも共通しているため、抗生剤の投与が基本的な治療となります。
抗生剤は内服薬と点滴注射の場合がありますが、重症例でなければ通常は内服薬での投与となります。
子宮内や子宮周囲(卵巣、卵管など)の感染では、もともと抗生剤の効果が届きにくいという特徴があるため、内服薬がなかなか有効でない場合など、点滴投与が選択されることも少なくありません。
尿路感染では、抗生剤の投与以外に、排尿を促して病原菌を体外に洗い出すということも重要になります。
そのため、水分を普段以上にしっかり摂取し、排尿を促すように意識します。
乳腺炎では、抗生剤が使用される頻度は少ないです。
これは、多くの場合では細菌感染の影響より、乳腺の詰まり自体による影響が大きいためで、適切な乳房マッサージによる乳腺の開通と乳汁の排出を促すことが重要になります。
自身で適切な乳房マッサージを行うことは難しいため、症状が出て辛いなと感じてきたら、早めに医療機関を受診するなどして専門家による指導を受けましょう。
化膿性乳腺炎や乳腺膿瘍では抗生剤の投与や排膿処置などの治療が必要となることも多いです。