異所性妊娠(子宮外妊娠)」いう疾患名から、どのようなイメージが思い浮かぶでしょうか。
医療現場では「若い女性の腹痛はまずは異所性妊娠(子宮外妊娠)を疑え」と言われ続けているほど重要な疾患です。
これは早期発見すれば治療が可能である反面、診断を逃すと命を落としかねない疾患だからです。
●異所性妊娠(子宮外妊娠)とは
正常の妊娠では、卵子は卵管→子宮→子宮内膜へと移動して子宮内膜に着床します。
しかし、稀にそこまでたどり着かない場合や行き過ぎてしまう場合があり、受精卵が子宮内膜以外の部分に着床し、発育してしまいます。かつてはこれを子宮外妊娠と呼んでいましたが、現在では「異所性妊娠」が正式な名称となっています。
●クラミジアが原因となることも多い
異所性妊娠は、意外にも全妊娠の約1%を占めており、決して珍しい病気ではありません。
そのうえ、異所性妊娠は近年増加傾向にあります。
この原因はクラミジア感染であるといわれています。
クラミジアに感染すると卵管が痛み、異所性妊娠が起こりやすくなるのです。
従来は異所性妊娠を早期に診断することは難しく、その結果破裂し腹腔内に大出血することで生命に影響する病気でした。
しかし現在では妊娠反応や超音波検査が発達し、診断方法が進歩しました。
そのため、症状が出る前の早期に診断できることも多くなり、従来に比べて危険度が下がりました。
異所性妊娠は、受精卵の着床部位によって「卵管妊娠」「腹膜妊娠」「卵巣妊娠」「頚管妊娠」の4つに分けられます。
このうち98%を占めるのが卵管妊娠です。
●異所性妊娠の典型的なケース
典型的なケースとしては、妊娠可能年齢の女性が無月経、少量の性器出血、下腹部痛などを訴え、受診します。
そこで妊娠反応検査を行ったところ妊娠が確認され、経膣超音波検査が行われます。
このとき胎嚢(GS)が子宮内部に認められず、子宮体部以外の領域に胎嚢が認められることがあるのです。
異所性妊娠の診断のポイント
まず、妊娠初期には正常妊娠でも子宮内に胎嚢が認められない時期があるので、胎嚢がないからただちに異所性妊娠と診断することはできないということです。
加えて初期の流産の場合も、妊娠反応が陽性であるにもかかわらず胎嚢がみえないことがあります。
異所性妊娠の治療
異所性妊娠の治療方針は、全身状態、着床部位、次回妊娠でのお子さんを望むかどうかを考えあわせ、総合的に決定します。
●待機療法:全身状態が安定し、hCG値(妊娠したときのみ分泌される特殊なホルモンの値)が減少傾向を示す一部の症例のみ
●薬物療法:メトトレキサート全身または局所投与など
●手術療法:卵管線状切開術、卵管切除術、単純子宮全摘術(頸管妊娠の場合)など
手術においては、以前は開腹手術がおこなわれていましたが、最近は腹腔鏡下に行われることが多くなりました。
手術をする場合には、卵管の切開もしくは切除を行います。
●卵管の手術について
異所性妊娠は卵管で発生することが多く、これを卵管妊娠といいます。
卵管妊娠は胎児が生存し胎嚢が発育していることを指します。
これに対し、卵管妊娠流産というケースもあります。
卵管妊娠流産で多いのは、比較的初期に胎児が死亡し、流産が卵管内でおこるケースです。
卵管妊娠流産は卵管妊娠に比べて腹痛や出血などの症状が軽く、手術をせず経過をみることもありますが、手術をする場合は卵管を温存することが主流です。
卵管妊娠の手術では、従来は卵管を切り取っていました。
しかし早期発見された場合や卵管妊娠流産の場合は、卵管を切り取らずに温存する手術もできるようになってきていますので、将来子供が欲しい人には朗報といえるでしょう。
一方、卵管妊娠で胎児が発育し胎嚢が大きくなると、卵管が破裂し、お腹の中に大出血を起こすことがあります。
かつては異所性妊娠の多くは卵管破裂による救急疾患でしたが、現代では妊娠反応と超音波検査で早期に発見し卵管破裂に至らず治療をすることができるようになってきています。