子宮内に複数の胎児が存在する状態をいいます。
子宮内に2人いる場合を「双胎(そうたい)」、3人いる場合を「三胎(品胎)」、4人いる場合を「四胎(要胎)」といいます。
多胎妊娠は早産になりやすく、合併症を発症する可能性も単胎に比べ高くなります。
三胎、四胎は非常にまれであるため、今回は双胎妊娠を中心にご説明します。
双胎妊娠の場合、「一卵性」「二卵性」といった表現をよく耳にするかもしれませんが、産婦人科ではそのような表現は使用しません。
分類は胎盤(絨毛膜)の数と赤ちゃんが入る膜(羊膜)の数とで行い、下記のような分類となります。
一絨毛膜一羊膜
一絨毛膜二羊膜
二絨毛膜二羊膜
「絨毛膜」の数は、「胎盤」の数を示し、「羊膜」は子宮の中の「膜」の数と考えていただければと思います。
ですから、「一絨毛膜二羊膜」双胎の場合には、胎児は羊膜によって2つの空間に分かれていますが、一つの胎盤を二人で分け合っていることになります。
合併症のリスクは、合併症のタイプが異なるため断定はできませんが、一般的に「一絨毛膜一羊膜」>「一絨毛膜二羊膜」>「二絨毛膜二羊膜」となります。
●合併症
母体に起こる合併症
子宮が過度に大きくなることによって子宮収縮が起こりやすく、「流産/早産」、またその手前の「切迫流産/切迫早産」になりやすくなります。
産褥期(さんじょくき)(産後、女性の体が妊娠前の状態に戻っていくための時期)には子宮が元に戻ろうとする力が弱いために出血が起こりやすくなります(弛緩出血、子宮復古不全)。
多胎妊娠すると出産時の出血に備えて母体の血液量が増えます。
双胎妊娠は単胎妊娠よりも貧血になりやすいです。
また、多胎では循環や腎臓機能へ負担がよりかかりやすく、妊娠高血圧症候群、HELLP(ヘルプ)症候群などの合併症になりやすいです。
●胎児に起こる合併症
胎児発育遅延(FGR)を起こしやすいため、超音波検査で胎児の発育をフォローしていきます。
一絨毛膜二羊膜や一絨毛膜一羊膜双胎に起こる合併症として「双胎間輸血症候群(TTTS)」があります。
これは、2人の赤ちゃんが1つの胎盤を共有しており、臍帯(さいたい)に向かっている血管が吻合している(つながっている)ことでおきます。
この吻合血管によって両児の間の血液量が不均等になります。
双胎間輸血症候群が発症すると、多くの血液を供給される児では、血液がどんどん流れ込んできてしまいます。
その結果、尿量産生が亢進し、胎児の周りのスペースが広く(羊水過多)なったり、心臓への負担から心不全を発症し体中がむくむ(胎児水腫)に至る症例もあります。
供給するほうの児は、胎児発育遅延(FGR)になったり、尿量減少によって胎児の周りのスペースがほとんどない状態(羊水過少)になったりします。
治療方法は、吻合血管をレーザー(FLP)により、両児間を行き来する血流を遮断する胎内治療や、早期娩出(人工的に早産で生む)を行うことで胎盤を分離する方法があります。
胎児治療は母体への影響を考慮し、厳格な基準を満たした症例に限り行われます。
○検査・診断
妊娠週数が進むと多胎妊娠の分類確定の診断が難しくなるため、妊娠10週頃までにどれに当てはまるのかを超音波検査で診断しておく必要があります。
ですから、市販の妊娠反応尿検査で妊娠が分かったら、早めに産科を受診するようにお願いします。
妊婦健診中の検査は単胎妊娠の場合と変わりありませんが、上に述べたような合併症がおきていないかどうかを注意してみて行く必要があります。
●治療
単胎妊娠よりも合併症がおきやすいため、注意して経過を観察して行くことが大切です。
また、多胎妊娠の場合早産になる確率が高いです。したがって、施設によっては三胎妊娠なら妊娠28週頃、双胎妊娠であれば妊娠32週頃に管理入院とすることもあります。
多胎では単胎と比較してリスクが高いため、施設が分娩や管理を受け入れてくれるかはじめに確認が必要です。
分娩方法は多くの施設で帝王切開となりますが、双胎妊娠で胎位(赤ちゃんの向き)やNICU併設など施設の条件を満たせば、経腟分娩を許可することもあります。
前述した一絨毛膜二羊膜双胎が妊娠16週〜26週の間にTTTS(双胎間輸血症候郡)を発生した場合には、胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP)を行います。
これは、TTTSの原因と考えられる両児間で合わさった胎盤血管を遮断する手術で、両児間の血流不均等をなくす根治療法です。
母体の腹壁に小さな皮膚切開を加え、多くの血液を供給される児の羊水腔に針(トロッカー)を挿入します。
トロッカーより胎児鏡を挿入し、胎盤表面の吻合(合わさった)血管をすべてさがし、胎児鏡より挿入した医用レーザーで吻合血管を焼き切ります。
すべての吻合血管を焼き切った後に羊水を除去して終了となります。
また、分娩後も2人を同時に育児していかなければならないため、母親の負担は大きくなります。
夫を始めとする周囲のサポートを得るために妊娠中から、準備しておきましょう!